【ここさけ】心理学で読み解く「成瀬順」が喋れなくなった理由

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こんにちは!大学院で臨床心理学を勉強しながら、心理学やメンタルヘルスについてのブログを書いていますひぐらし(@psycholokorori1)です。

 

アニメ映画『心が叫びたがってるんだ(以下ここさけ)』の実写版がついに公開されましたね。それに合わせて先日、テレビでも原作の「ここさけ」が放映されました。

 

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映画が好きでよく見ているのですが、この映画は僕が見た映画の中でもベスト5に入るほどの名作だと思います。お気に入りの映画の1つです。

 

若干時期外れになってしまいますが、この盛り上がっている機会にずっと書きたいと思っていた記事を書きたいと思います。賛否両論あると思いますが、ぜひ「ここさけ」の魅力とともに、心理学、特に僕が専門にしている臨床心理学の世界を紹介できればと思います。

 

映画の登場人物とあらすじ

心が叫びたがってるんだ。 3 (裏少年サンデーコミックス)

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称:あの花)の制作スタッフが送る、青春アニメーション映画です。舞台はとある秩父の高校。「あの花」の舞台も秩父だったのですが、いろいろなキャンペーンをする中で、秩父の人によくしていただいたことから、再び舞台を秩父にしたのだそうです。

 

物語のメインキャストは、ある日の出来事から喋れなくなってしまった成瀬順(なるせじゅん)という女の子と、いわゆる窓際族の坂上拓実(さかがみたくみ)です。二人を含む仲間たちの関係と心の変化を、綺麗な音楽とともに描いている名作映画です。

 

この記事は「ここさけ」を見た方を対象に書いているので、あらすじはここら辺にして本題に移りましょう!

 

成瀬順が喋れなくなった理由を心理学で

成瀬順は、昔の出来事がきっかけで、「たまごの呪い」がかかってしまいます。その呪いとは、「喋るとお腹が痛くなってしまう」というものです。

 

ここからは、その成瀬順が喋れなくなった理由を心理学的に説明してみたいと思います。その問題の成り立ちと、なぜ成瀬順は喋ることができるようになったのか、その1つの仮説を立てたいと思います。

 

選択性緘黙(かんもく)と認知行動療法

ある日を境に喋ることができなくなってしまった成瀬順。それと似た症状を持つ心の病に、選択性緘黙(かんもく)があります。

選択性緘黙は、例えば家では喋れているけど、学校では喋れないというように、ある場面になると喋れなくなる心の病(精神障害)です。「不安障害群」という大きなカテゴリーに含まれています。

 

成瀬順の症状は、この選択性緘黙に似ていますが、もっと重たいですね。どんな場面でも喋れていないからです。しかし、そのメカニズムはとても似ていると感じました。

 

選択性緘黙を含む不安障害を有効に説明できるモデルに

 

認知行動療法

 

の枠組みがあります。認知行動療法とは、「考えー感情ー行動」の枠組みを使って、問題を整理して、相談しに来た人と一緒に解決を目指していくという心理療法(心に対する治療的な関わり)です。

 

ということで、今回成瀬順が喋れなくなった理由を考えるにあたり、認知行動療法という臨床心理学の考え方を使って丁寧に分析していきたいと思います。ぜひ、これを機会に認知行動療法についても深く知っていただければと思います。

 

喋るとお腹が痛くなってしまうメカニズム

認知行動療法の枠組みで、問題の成り立ちを明らかにしていく作業を「ケースフォーミュレーション」といいます。本来ケースフォーミュレーションは、相談しに来た人と一緒に作ったり直したりするのですが、ここではできないので、あくまで仮説ということになります。

 

喋るとお腹が痛くなってしまう成瀬順、その背景にはどんなメカニズムがあるのか、図で考えてみましょう。

 

ケースフォーミュレーション 具体例

 

図の一番上を見てください。まず、お腹が痛くなるのはどんな状況か。これは、「喋る時や喋ろうとする時」ですね。では、この時どんなことが成瀬順に起きているのでしょうか?

 

まず、成瀬順には頭の中に「自分には呪いがかかっている」という考えがありますね。その呪いとは、「喋るとお腹が痛くなる」というものでした。

 

そうすると体にどんな反応が起きるか。想像してみましょう。自分でやったらいけないとわかっていることをやると人はどうなりますか?そうですね、成瀬順が考えるように、お腹が痛くなったり、汗が出てきたりします。これは、「呪いがかかっている」と思い込んでいたら正常な反応ですよね。

 

そしてその結果、成瀬順はどんな行動に出ているのでしょうか?「喋らないようにする」というのが、成瀬順がとっている行動ですね。これを専門的に、回避と言います。その状況を避けることです。

 

そうすると、もともとあった考え「自分には呪いがかかっている」はどうなるでしょうか?喋らないとお腹が痛くならないわけですから、本人の中で「やっぱり正しい!」ということになるわけです。客観的にみれば、そんな呪いなんてあるはずもないのですが、本人にとってはどんどんその考えが強くなっていくのです。

こうして「呪い」への思い込みはどんどん強くなっていき、喋ることへの不安が高くなり、それにつれてお腹が痛くなるなどの生理的反応も強くなっていきます。こうやって悪循環になっているのですね。

 

ここで流れを簡単に整理しましょう。

 

喋ろうとする→私には呪いがかかっている、お腹が痛くなる→やばいやばい、本当に痛い!→喋るのをやめると治った→やっぱり私には呪いがかかっているんだ→…

 

自分で自分をどんどん苦しくしてしまっているんですね。このように「考え→反応→行動」という関係で見てくると、問題の構造が見えてきますね。ちなみにこれは、ケースフォーミュレーションの中でもミクロなケースフォーミュレーションと言います。現在の問題がなぜ維持されているのかを明らかにしています。

 

 

 

では、なぜ成瀬順はこんな「呪い」を自分にかけてしまったのでしょうか?この「呪い」には、どんな意味があるのでしょうか?それを考えることは、この強い「呪い」のような考え方を解決するのに絶対に必要なことです。

 

映画を見て僕が立てた仮説は、「呪いをかけることで自分の心を隠すことができる」からではと考えました。

 

ケースフォーミュレーション 具体例

 

成瀬順は、なぜ心を隠す必要があったのでしょうか?そこには悲しい出来事があったのですね。

 

コラムーなぜ歌なら大丈夫だったか?

ここまで読んでくださった方の中には、「じゃあ何で歌ならお腹痛くならないの?」と思った人もいるかもしれません。それは、「喋れ呪い」だからです。周りの人からみて、「歌と喋るのってほとんど一緒じゃん」と思っても、本人の中でルール上は別物なのです。

よく考えてみれば、メールを打つのも大丈夫ですよね?成瀬順は「喋って気持ちを伝える」というところに、ものすごいトラウマ的な経験をしているので、「喋る」というところが本人にとって大きな意味を持っているのです。

よく強迫性障害の人の中で「綺麗にしないと気が済まない」という人がいますが、よく聞いていくと「学校のものは汚い。家のものは平気」ということがわかったりします。客観的にみたら「なんだそれ?」と思っても、本人の中ではそういうルールなのです。それと似ている感じがしますね。

 

なぜ呪いはかかったのか?

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もともとおしゃべりだった成瀬順は、お父さんの不倫現場を目撃して、なんの悪意もなくそれをお母さんにばらしてしまいます。その結果、両親は離婚してしまいます。

 

そこでお母さんから言われたこと、それが成瀬順が自分の心に呪いをかけるきっかけとなります。それが「2度と喋らないで」という言葉です。

それだけではありません。本当は自分が全て悪いはずのお父さんが、「全部お前のせいだ」と成瀬順に吐き捨てたのです。その2つの言葉は、心の傷となるとともに、成瀬順にある考えを植え付けます。

 

普段は意識しなくても、その人の底の方に流れている根本的な考え方を、専門的に中核的な思い込み(中核的信念)と言います。例えば「自分は価値のない人間だ」「人は一人では生きられない」などですね。

 

では、このストーリーの中で、お母さんお父さんのひどい言葉は、成瀬順にとってどんな中核的な思い込みを作ったのでしょうか?それは

 

言葉は人を傷つける

 

ではないでしょうか?これは、野球部の部員がもめた時に出てきた、成瀬順の心の底のほうに眠っていた考えです。本当はそんなことはないのに、「自分がうかつに喋ったから、お母さんとお父さんを傷つけて離婚させた」と思い込んでしまったのです。それだけではなく、「自分自身も傷ついた」のです。言葉は人、つまり自分も相手も傷つけるものだと思っているのです。

 

そして、中核的な思い込みから発生する、もう少し具体的な考えを、専門的に先入観と言います。これは、「〇〇すれば〜〜になる」というような形であったり、「〇〇しなければいけない」という形をとる考え方です。

あなたの中にもありますか?例えば、「完璧に仕事ができなければ、自分に価値はない」というものが先入観ですね。その背景には、「仕事ができないやつはクズだ」「自分は価値がない人間だ」というような中核的な思い込みがあることがあります。

 

それでは話を戻しましょう。「言葉は人を傷つける」という考えを持っている成瀬順はどんな先入観を持っているでしょうか?

 

考えられるのは「自分が喋れば、人を不幸にする」「言葉=自分の気持ち=心が出てしまうと、自分が傷ついてしまう」という考えです。ここまで説明したことを含めて図にしました。

 

ケースフォーミュレーション 具体例

 

昔、お母さんとお父さんに受けたひどい言葉。そこから「言葉は人を傷つける」と考えるようになった成瀬順。具体的には、「自分が喋ると相手を不幸にしてしまう」「自分が傷ついてしまう」という考えに繋がっています。心理的なトラウマはもう経験したくありません。自分の心は隠さないといけない

 

自分の心も相手の心も守るために行き着いた答え、それが

 

自分にかけた呪い

 

だったのではないでしょうか?だから「たまご」は生まれてしまったのです。成瀬順は、「喋らない」という「殻の中」に入ることで自分と相手を守ろうとしたのです。

 

なぜ呪いは解けたのか?

ここまで読んでくださりありがとうございました。それでは、いよいよこの記事も最後です。

 

では、なぜこの強力な呪いが溶けたのでしょうか?その答えは、物語のクライマックスにあります。

 

ミュージカルの準備や歌を通じて、自分の殻を少しずつ破り始めた成瀬順でしたが、自分が片思いだったことを知り、気持ちがぐちゃぐちゃになります。一度トラウマで傷ついてしまっていた成瀬順の心は黄身のように柔らかく、「スクランブルエッグ」になってしまいます。

 

廃墟となったホテルで、成瀬順と坂上拓実は向かい合います。「呪いなんか破るからこんなことになったんだ」「言葉は人を傷つけるんだ」。成瀬順の思い込みは、過去のトラウマとまぜこぜになりながら、成瀬順を締め付けていきます。

 

坂上拓実がかえる言葉は、成瀬順の思い込みと心を動かしていきます。

 

俺を傷つけていいよ。傷ついていいから、お前の言葉、もっと聞きたいんだ、成瀬!」

俺、お前と会えてうれしいんだ。お前のおかげでいろいろ気付けたような気がするんだ」

 

 

成瀬順の心に一番響いたのはこの言葉ではないでしょうか?

 

だって俺、お前の言葉で嬉しくなったから!」

 

 

この言葉が、成瀬順の中核的な思い込みを変えることになります。

 

言葉は人を幸せにもできる

 

呪いによって気付けなかった事実です。

 

ミュージカルの準備を通じて、自分の存在を受け止めてくれたクラスのみんな。喋れない自分を支えてくれた坂上拓実。そこにはもう呪いなんて必要はありません。傷つける言葉もどんな言葉も受け止めてくれる人がいるからです。もう、「心」は思い込みや考えにぐるぐる巻きになってはいません。

 

 

心が叫び出す

 

そして、成瀬順の新しい世界が始まったのです。

 

ケースフォーミュレーション 具体例

 

最後にー心が叫びたがってるんだ

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あなたは何の根拠もない「呪い」で自分を縛り付けていませんか?悪い考え、思い込みがあなたを苦しくしていませんか?

 

一歩離れてみたとき、そんな考えがばかばかしいことに気づくかもしれません。今回ご紹介した認知行動療法の考え方は、セルフケアでも実践できるものです。そのための本も販売されています。

 

 

ぐるぐる巻きになった、「叫びたがっている心」に耳を済ませてみてはどうでしょうか?

 

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1 個のコメント

  • 40代会社員男性です。先日の地上波放送でのアニメ版で衝撃を受け、DVDを借りて再度見て、実写版映画も見て、秩父ロケ地巡りもしてきました。そのうちに成瀬さんの症状や行動が気になって、色々調べているうちに本記事にたどり着くことができました。映画のように劇的に緘黙を破ることは現実世界ではないのでしょうが、この考察のおかげで緘黙症と認知行動療法に係る理解を深めることができました。認知行動療法に係る本も買って読みました。専門家ならでは考察、ありがとうございました。

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